日本人の食生活に欠かせない昆布。
でも、「日本近海ではとれなくなる可能性がある」とする研究を、北海道大学の研究チームが2019年に発表しています。
また、大阪人が好む真昆布の産地、南茅部(みなみかやべ)では、天然昆布採取は「危機的な状況」と言われています。
昆布を食べ続けていくことはできるのでしょうか。
*2024年8月追記
目次
乾物の知識クイズに挑戦してみませんか?
5つのクイズに答えると、回答と解説を読むことができます。
天然昆布の生産量が激減、30年前の1/3に
日本の昆布の90%以上は、北海道で水揚げされています。
北海道大学で昆布について研究をしている四ツ倉典滋准教授によれば、日本の昆布の2/3は天然物ですが、30年前に比べてその生産量は1/3に減っているそうです。
さらには、これも北海道大学が2019年に発表した研究では、代表的な昆布11種について、その分布域が北上し,2090年までには日本の海域から消失する種もあるとされ、和食に関わる人たちの間に衝撃が走りました。
(参考 北海道大学ホームページ「地球温暖化により北日本のコンブが著しく減少する可能性を予測~沿岸生態系の海洋生物多様性や生態系サービスに負の影響~(北方生物圏フィールド科学センター 教授 仲岡雅裕」)
真昆布は10年前の5%しか採れない?天然物はほぼない?
ここ数年、真昆布(マコンブ)について、
- 消滅する
- 10年前の5%程度くらいしか採れなくなっている
などのニュースを読んで気になっていました。
2021年秋に、大阪の(株)浪速昆布 佃真の代表取締役 小濱敬一さんと、昆布漁師の高谷大喜さんにお話を伺う機会を得ました。
お二人は
「真昆布は天然物がほとんどないのが現状です」
と口を揃えておっしゃいます。
10年前の5%程度という数字について伺ったところ、「そんなものだと思います」とのことでした。
「親潮が流れてこなくなったんですよ」
天然昆布の不作は、海水温の上昇が原因とも言われますが、実際のところ本当の原因はまだわかっていないとする方も多いようです。
真昆布の産地、特徴
真昆布は、函館近辺で採れる昆布の名称で、別名「山だし昆布」とも呼ばれるほど、たっぷりダシが出ることで知られます。
特に大阪人に愛されている昆布です。
真昆布は、例えば京都人が好む利尻昆布に比べると、甘味があるふくよかな感じのダシがとれます。
また利尻ほど硬くないので、ダシをとった後も料理に使いやすいため、私も愛用しています。
小濱さんは、真昆布の特徴として、
- 甘味と旨味の両方があること
- 羅臼(ラウス)ほどの旨味はないけれど、量が少ない羅臼(ラウス)よりは値段がお手頃
をあげていました。
*羅臼昆布は、北海道の東部、知床半島の南側にある羅臼海岸でとれる昆布のことを言います。
天然物がなくなると養殖もできなくなる?
驚いたのは、天然物がなくなると養殖もできなくなるという話です。
真昆布を養殖するには、天然物の昆布からタネ(胞子)をとって育てます。
私もそう思ったのですが、実は育った養殖昆布からタネをとって育てても1年目は昆布になるものの、2年目には育たないのだそうです。
初めて知りました。
天然物がなくなれば、タネをとることができなくなり、養殖もできなくなってしまうというのです。
<追記>
2024年7月5日、渋谷ヒカリエで開催された、
伝統の昆布食文化 × 未来の海藻食文化「海藻食文化の伝統と未来を体験する」
というイベントで、大阪のこんぶ土居4代目店主、土居純一さんに質問させていただいたところ、昆布の完全養殖が可能になったと伺いました!
完全養殖とは、「養殖昆布」を親にして種苗を生産し、栽培することです。
昆布を料亭などに卸している小濱さんの会社でも、天然物を滅多に仕入れることができず、手に入れば料理屋さんのために熟成させて手元にとっておかれるのだそうです。
大阪の有名なうどんすきのお店の関係の方も同席しており、
「これからウチの味を守るにはどうしたら良いのか、3年分の昆布は確保しているけれどその後が心配で、、」
とおっしゃっていました。
(ただ、ある方から伺ったところ、このお店は利尻をお使いとのこと。真昆布ほど危機的状況にはないとは聞いていますが、それでも心配ということなんですね)
天然と養殖の違いと、2年ものと促成昆布の違い
天然物は海の底から上に伸び、海流に揉まれるので形が不揃いになりますが、厚みがでます。
養殖物は、海面から下に向かって吊るして育てるため、形よく真っ直ぐ伸びる傾向があります。
真昆布の養殖には、種類があるのだそうです。
- 1年未満で収穫する促成昆布
- 2年かける養殖昆布
2年ものは、天然物とあまり変わらないレベルのダシが取れると小濱さん。
でも、主流は促成昆布で、2年ものを作る昆布漁師が減っていると言います。
理由は、
- 手間がかかる
- 促成の方が早くお金になる
- 海の状況などにも左右されるため、二年育てる方がリスクが大きい
といったことなのだそうです。
<追記>
土居さんからは、昆布は1年間成長した後、一度小さくなる(という表現でいいのか微妙ですが)、そしてまた2年目に伸びるけれど、伸びないものもあるので漁師さんにとってリスクだと伺いました。
こちらは、大阪こんぶミュージアムで土居さんに見せていただいた真昆布。
左から、促成、2年もの、天然もの。
いい昆布を使って料理をすることの意味
そんな中、私たち消費者にできることはなんでしょう?
小濱さんは、「いい昆布を使って料理をすること」だと言います。
「いい昆布を知って買ってくれる人が増えれば、昆布漁師たちも頑張る気になります」
昆布漁師の高谷さんも言います。
「昆布の味がわからず、安い促成昆布を使う人ばかりになれば、昆布漁師もわざわざリスクを冒して2年ものの養殖をしようとは思わないです。」
中国では、養殖真昆布が劇的な増加?
ところで、日本が昆布の天然養殖トータルで年間1万5000トンの漁獲量であるのに対し、中国は養殖のみで150万トンを超えていることを最近知りました。
もともと、中国沿岸部には昆布は生息していなかったのですが、1950年代から薬などの工業用として国が重点政策として昆布の養殖を進めてきたと言います。
(参考 : ピュール ホームページ 「海からコンブがいなくなる…?!コンブ研究者、北海道大学 四ツ倉准教授へのインタビュー」)
中国の昆布生産の半分を占めるのが、山東省です。
特に煙台市にある大欽島は、「コンブの島」と呼ばれるほどに昆布栽培が盛んと言います。
(参考 : AFP BBニュース 「夏の収穫期迎える「コンブの島」 山東省大欽島」2019年6月15日)
中国の昆布生産は、工業原料・非食用を主用途として重視されてきたが、 1990年代以降は用途が拡大し食用としての価値も上がってきた
出典 : 北海道大学農經論叢 64集 p.41~52 2009年3月「コンブ生産における中国の動向と台湾市場」
海の森づくり推進協会ホームページに寄せた「中国の昆布事情」という文章の中で、高知大学名誉教授 大野正夫氏は、
「30 年ほど前になるが、大連の“やまとホテル”で、コンブだけの料理を食べたことがある。厚い2年昆布で塩辛くておいしくなかった。最近食べた“昆布の入った 肉炒め料理”は、薄く柔らかく甘みがあり 日本人の食感に合う味付けになっていた。」
と書いています。
ダシ用昆布として、中国の昆布がどの程度のレベルなのかは分かりませんが、中国の昆布のルーツは、北海道由来であるという調査結果があります。
(参考 : Science Portal China 「中国の昆布、起源は日本の北海道」2017年3月8日)
また北海道大学の四ツ倉典滋准教授は、「中国の養殖コンブのルーツは北海道から渡ったマコンブであることが知られています。」としています。
(参考 : 「海外コンブを見て北海道コンブの将来を考える」)
であるならば、養殖で大増産することも可能ということになるのではないでしょうか。
ネットで調べてみたら、中国産のだし昆布、すでに随分販売されているんですね。
ただ、日本は国内産業保護のため、昆布について輸入割当制度を設け、輸入量の上限を規定しています(外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号))。
輸入しようとする業者は、経産省に輸入割り当て申請を通す必要があります。
(参考 : フォーサイト ホームページ 「通関士通信講座 輸入割当制度とは?概要と対象品目、注意点をわかりやすく解説」)
利尻昆布の養殖方法は、他と違う
日本では一般には、天然昆布が2年目に放出する胞子を採取して養殖昆布にする方法がとられていますが、利尻島、礼文島一帯でとれる利尻昆布の養殖方法は、違います。
胞子を出す前の昆布=「種昆布」を採取して水槽で2年間育てて発芽を促し、種昆布から胞子を放出させて養殖しているのだそうです。
一般的な方法では、天然昆布が減れば胞子を採収するのが難しくなりますが、種昆布から育てることで、貴重な天然資源を守りながらより多くの養殖昆布を生産することができるため、より持続可能性が高い方法ともいえそうです。
(参考 : ポケットマルシェ ホームページ「利尻昆布はどう作られる?漁師と利尻島民の夏の1日を追いかけてきました」、メシ通 ホームページ 「「利尻昆布」が和食のプロたちから愛され続ける理由 〜料理の土台を作る生産者の仕事〜)
昆布文化を継承するために
北海道の昆布の品質は、素晴らしいと思います。
養殖に大成功している中国の例があるように、養殖昆布を増やしていくことは可能なはずです。
この昆布の美味しさを未来に引き継いでいくために、天然昆布を増やす努力とともに、北海道ならではの品質を保ちつつ、養殖昆布を増やす研究を進めていってもらいたいと心から願っています。
そして、私たち消費者も、良質のダシが出る昆布の価値を見直し、昆布ダシをベースにした料理づくりを心がけていきたいですね。
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