「美味しさの脳科学 Neurogastronomy 匂いが味わいを決めている」という本を読みました。
2002年から、「五感」で感じることを中心に据えた食育プログラム「食の探偵団」を全国で開催してきました。
なので、今までにも嗅覚についての本を読み、研究者に会いに行き、実際に嗅覚を通じての、あるいは嗅覚にまつわる気づきがあるようなプログラムを行ってもきました。
この本は、そんな中でもかなりの充実度(300ページを超える専門書)。
さもありなん、著者は、イェール大学の神経生物学の教授であり、「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」誌の元編集長でもあるゴードン・M・シェファード。
なかなかの難易度ではありますが、学びと発見がたくさんありました。
(この記事は、2017年9月16日旧ブログからお引っ越ししたものです)
平均開封率50%を超えるメルマガ
の読者登録はこちらから
食物に風味があるのではない。それは脳が生み出す創造物なのだ
食物の「風味」に注目し、その科学的解明を目指す新たな試みは、「ニューロ・ガストロノミー」と名付けられ、今注目されている学問分野の一つです。
まず驚くのは、食物の風味(=味わい)は、食物固有のものではなく、食物に含まれる風味の「分子」を脳が感知して生み出す創造物であるとのこと。
そして、「食物が五感をどう刺激するか」という従来のアプローチとは逆に、脳を中心に据えて「脳が食物の感覚をいかに創り出すか」を探求しています。
人の嗅覚は犬より劣っているわけではない。嗅覚には二つある
人は、直立二足歩行を初めて視覚に頼るようになった時から、その嗅覚は衰えてきたと言われてきました。
でも、花の香りをかぐ時のような「オルソネイザル経路の匂い」の感知で犬に劣るのは確かですが、食べものを飲み込んだ時にふわりと立ち上る匂い=「ネトロネイザル経路の匂い」=風味を感じる能力を、人は発達させてきました。
そしてこの「風味」を脳内で創造する(想像ではない)力が、言語や調理や複雑な社会関係を生み出し、人を進化させてきたとも言えるのではないか、と著者は言うのです。
ニューロ・ガストロノミーから誕生した、脳内最大と言ってもいい行動系「ヒト脳風味系」という新しい概念は、注目に値するでしょう。
風味を「生み出す」脳の働きを解明することは、単に健康的な食生活をおくるための助けになるだけではなく、肥満の解消、アルツハイマーなど嗅覚との深い関係がわかっている病気の予防や治療と言ったことにも応用できるのだそうです。
ヒトの嗅覚。
この分野の研究、それも今までと違った方向からのアプローチに、読んでいてワクワクしてしまいました。

コメントを残す