食品ロス問題の専門家 井出留美さんが書いた新書「食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス」(PHP新書)を読みました。
コロナの影響での買い占めや輸出制限なども問題になる中で書かれており、現段階で考えられる食料危機問題を概観するのによい本と感じました。
ほぼ同じ内容の音声配信はこちらでお聴きいただけます。
目次
1 食料危機は、先進国でも起きるのか?
2 食料危機の原因は何か?
3 食料を確保するために何ができるのか?
4 私たち一人一人ができることはなんなのか?
1 食料危機は、先進国でも起きるのか?
まずは、そもそも「食料危機は起こるのか?」という問題について、識者によって書かれた本から引用がなされています。
もちろん、すでに十分に食料を確保できない人が世界で9億4000万人(2020年10月9日現在)なのですが、先進国も含め、全世界的に食料危機に直面すると思うかという問題について、例えば
フランスの経済学者ジャック・アタリ氏
2050年までに人口の1/3はベジタリアンにならざるを得ないだろう
という見解がある一方で、
豊かな国日本では、物流がストップする方が問題で、それさえなければ基本的に食料危機は起きないとするキャノングローバル戦略研究所の山下一仁氏の意見までさまざま。
私たちが、これからこの問題に対してどういう態度を取っていくかでも、未来は変わると思われます。
2 食料危機の原因はなにか?
食料危機が起こる原因として、著者は以下をあげています。
分配の不平等、搾取主義、食品ロス、気候変動、バイオ燃料、肉食の増加、バッタの害、ミツバチの現象、COVID19の影響など。
この中で私がおもしろいと思ったのは、2020年にニュースでもずいぶん取り上げられたバッタの害。
バッタ博士こと前野浩太郎さんへのインタビューが掲載されています。
70年に一度くらいの割合でしかこうした大きな被害に至らないため、専門家の数が圧倒的に少ないこと(フィールドワークをしているのは世界で前野さんだけ!?)、バッタは夜には一箇所に集まるのになぜ夜に防除活動をしないのか疑問などの話、バッタの生態についての記述もとてもおもしろく読みました。
また、ミツバチについて、世界の人が日常的に食べている食品100種類のうち70%以上がミツバチによる受粉で実っているというのは、驚きの事実でした。ミツバチの減少は、世界で大きな問題となっています。
3 食料を確保するために何ができるのか?
日本の食料危機の歴史を概観したあと、では、食料を確保するために、何をしていくべきなのかも書かれています。
食品ロス削減やリサイクル、消費者啓発、昆虫食や培養肉など、いろいろ挙げられていますが、FAO駐日連絡事務所前所長のンブリ・チャールズ・ボリコ氏の、システム全体として見るべきで、食料は必ずしも地元で生産することではない、という発言は、興味深く読みました。
実は私も、主食である米は日本の風土にもあっているし、自給率100%に近い状況を維持してほしいとは思うものの、今の日本人の食卓を維持するためには、日本中を畑にしても足りないことは明白なので、いかに友好的な国際関係を維持し、不作などの影響をできるだけ受けないようにリスク分散をしていくのかという視点の方が大切なのではないかと常々思ってきました。
月刊誌「農業経営者」副編集長の浅川芳裕氏が、先進国の自給率向上政策は、途上国の輸出入を阻害することにつながるというのにも一理あると思います。もちろんフェアトレード的な視点はそこに欠かせないと思いますが。
4 私たち一人一人ができることはなんなのか?
井出さんの著書の多くは、最後に、私たち一人一人にできることは何か、とリストを挙げています。この本も例外ではありません。
今日からでも始められる100の提案がなされています。
食料危機のような世界的な大きな問題に対しては、ともすれば、「それは企業や研究者が取り組むべき問題でしょ」と、自分たちには関係ないという態度をとりがちです。でも実は、本当のところは私たち一人一人の考え方、行動の積み重ねこそが、いつか大きなうねりになっていくと、井出さんはお考えなのだろうと思い、共感を覚えます。
手に取りやすい新書。
これからの食の問題を概観する本としてオススメします。
さまざまな本からの引用があるので、そこからさらに興味のある分野の本へと進むのも良いかと。
私は早速「バッタを倒しにアフリカへ」を図書館で予約しました。図書館を活用しようというのも99番目の提案にありました。25人目なので、まだまだ先になりそうですが。
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