多年生の穀類が、地球を救う?「土・牛・微生物」を読んで

土・牛・微生物

土・牛・微生物」は、アメリカの著名な地質学者デイビッド・モントゴメリーの著書、「土の文明史」「土と内臓」に続く3部作の完結編です。

著者自身がこの本で書いているように、「土の文明史」では人類の未来について悲観的だった著者の態度は大きく変わり、「農業における大きな革命が起きようとしている」との想いに貫かれています。

サステナブル料理研究家、一般社団法人DRYandPEACE代表理事のサカイ優佳子です。

2011年からは特に、現代のライフスタイルに合わせた乾物の活用法の研究、発信に力を入れています。

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standFM 「サカイ優佳子の 食卓で世界旅行

1 腸内環境と土壌の環境は、同じ構造

畑と人

腸と腸内細菌の関係と、植物と土壌内細菌の関係は同じ

1作目「土の文明史」で、著者は、世界各地の文明の歴史を振り返り、土壌の劣化によって文明が滅びていく姿を炙り出しています。

土を使い果たした時、その文明の寿命も終わるというのです。

今、すでに土が使い果たされようとする中で、これからは土壌を生態系として扱わなければならないとしています。

2作目「土と内臓」では、生物学者アン・ビクレー(奥様)とともに、人体、特に腸内細菌の働きと、土壌中での微生物の働きとの共通点を描いています。

土壌や腸内細菌の健康こそが、植物やヒトの健康の基礎であることが記されます。

編集者によれば、「失われゆく、我々の内なる細菌」の著書でも知られる(この本、めちゃくちゃおもしろいです!)細菌学者のマーティン・J・ブレイザーも、この本を絶賛しているそうです。

そして3作目が、この「土・牛・微生物」(原題はGrowing a Revolution –bringing our soil back to life-)です。

著者は、机上でだけ考えるのではなく、アメリカ国内のみならず、世界各地の農業の現場に足を運びます。

そうしてさまざまな人と対話する中で、考えが確信に変わっていくのです。

2 鋤(すき)は人類最悪の発明?

土牛微生物

メモを取りながら読みました

著者は、すきと化学肥料は、土壌にいる菌類を混乱させるとします。

そして、

  • 空気中の1/3の炭素は、耕起することによって生み出されていること
  • 耕起によって、年平均1mmの表土が失われていくこと

を指摘しています。

持続可能で、農民が豊かになり、温暖化対策にもなる農業にするために必要なことを、著者は3つ挙げています。

  1. 耕さない(不耕起栽培)ことで、微生物を定着させる
  2. 被覆植物を栽培して土を覆い、水分を保持するとともに雑草を抑制する
  3. 多様性のある輪作で土に栄養を供給することで、病原菌を排除する

 

この3つをしっかり守れば、有機栽培でも慣行栽培でも良いといいます。

ともすれば、「環境に良い農業は効率的ではないでしょ?」「増えていく世界人口を養うのは無理でしょ?」と指摘されますが、著者はそれはちがうといいます。

この3つをきちんと実践している農家の収量をちゃんとみてほしい!と。

そうしたデータをきちんととらなければいけない、と。

3 牛を放牧するメリット

牛の放牧

著者は、農地で牛を放牧し、刈り株を食べさせることを勧めます。

牛が草をはむために植物を引っ張ることで、根毛が引き抜かれます。

これによって、土に穴が開き、より多くの水分が土に浸透するようになります。

一方で、植物は自身を治癒するために、より多くの資源を土壌から集めようとします。

そのために、炭素が豊富な浸出液を出して微生物に応援を頼むわけです。

植物は炭素を出し、微生物(菌根菌)は、養分と水分を植物に返す共生状態にあります。

結果、その土には微生物が引き寄せられます。

牛を放牧することでその糞もまた土の栄養となり、さらには肉やチーズなどの副産物を手に入れることもできます。

4 多年生の穀類が地球を救う

パタゴニアのLong Root ビール

パタゴニアが、カーンザを原料に作ったLong Root ビール(パタゴニアHPより)

著者は、被覆植物としても機能する多年生の穀類を作ることが重要だとしています。

そして、根が数メートルにもなる「カーンザ」という多年生の麦が、その一つとして紹介されています。

カーンザは、すでにビールの原料として使われ、パタゴニアによって製品化されています。

カーンザの長い根は、土を耕さなくても成長し、貴重な表土を守ります。

従来の小麦と比べて必要とする水の量が少なく、一年生の穀物よりも多くの炭素を大気中から取り除き、そして素晴らしいビールを作ります。

パタゴニア HPより。カーンザの写真もあります)

ただ、残念ながら、こうした動きに大企業は関心を示さないといいます。

栽培植物が一年草である方が、毎年苗を購入してもらえることで儲かるためです。

5 真の環境保全型農業で、社会と政治の安定を

著者は、上に記した三原則を守る「環境保全型農業」は、劣化した土壌を回復し、社会と政治の安定を立て直すよう、悪循環を逆転させることができる!としています。

この本は、特に農業を生業とする方々にはぜひ手にとっていただきたいと思います。

私は農業に携わっているわけではありませんが、一消費者としてこうした動きには敏感でいたいと思っています。

私たちの食べる、飲む力を、束ねていくことができれば、大きな流れになっていくはずと思うからです。

まずは、パタゴニアが開発した、カーンザを原料とするLong Root ビールを飲んでみます。

パタゴニアという会社、すごいなあと改めて思います。

先日オンライン上映会でみた「パブリック・トラスト」という映画も、パタゴニアの創始者イヴォン・シュイナードが、俳優のロバート・レッドフォードとともに制作総指揮をしていました。

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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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