クスクスについて検索していたら、たまたまヒットした「クスクスの謎 人と人をつなげる粒パスタの魅力」(平凡社新書 にむらじゅんこ著)。
読んでみたら、すこぶるおもしろかった!
食べものが、どう広がったのかを時間軸、空間軸で見ていくと、世界の歴史との関連が見えてきます。
著者はフランス在住のライター、翻訳家で、専門分野は東アジア、フランス語圏の近代文化。
北アフリカで生まれ、中東にも伝わりフランスを経由して世界に広がりつつあるクスクスの文化を描いています。
目次
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1 フランスの国民食、クスクス
「クスクスは、フランスの国民食」というと、意外に思う人もいるかもしれません。
もう20年以上前、1999年にフランスの中心部オーベルニュ地方に住んでいたときにもクスクス屋さんは大人気。
安くてお腹いっぱいになるから広まったもあるのかもしれませんが、現地で知り合った若いフランス人女性が、クスクスがどれほど美味しいか、素晴らしいかを力説してくれたのを今も覚えています。
フランス人のクスクスの食べ方
一般的には、スパイスが香る具だくさんのスープをかけて食べます。
ヒヨコ豆やたっぷりの野菜、それに羊肉、鶏肉、メルゲーズソーセージというピリ辛のソーセージなどが入っているものが多いです。
初夏には、パセリをたっぷり入れてレモンを効かせたタブーレを、カフェの外に並んだテーブルで白ワインと共に楽しむ姿をよく見かけました。
タブーレは私も大好きで、よく作ります。
ちなみにフランスのタブーレは、ブルグルと呼ばれる挽き割り小麦を使って作る中東の「タッブーレ」のコピーと言われています。
この本を読んで、クスクスがどうやって広まってきたのか、どんな文化とともにある食物なのかがわかり、クスクスという食べものへの視点が変わりました。
フランスに伝わったのはいつ?〜奇書「パンタグリュエル」にも登場!
クスクスの発祥は、一般的には北アフリカのマグレブと呼ばれる地域とされます(この本の中にも、実は薬草の知識をもったお手伝いさんとして入っていたサハラの人たちがルーツなのではないかという異説が紹介されていますが)。
具体的には、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、モーリタニア、リビア(の西半分)といった国々で、ベルベル人と呼ばれる人たちが住んでいた地域です。
16世紀の作家ラブレーの奇書「パンタグリュエル」の中に既にクスクスの記述があり、この頃には既にフランスにクスクスが入っていたことがわかります。
19世紀には、ジョルジュ・サンドがクスクスを礼賛。
20世紀になって大衆料理になり、1960年代に入ってからは、アルジェリア、チュニジア、モロッコの独立によって、多くのピエ・ノワール(北アフリカ生まれのフランス人。直訳すると「黒い足」)たちが帰国したのをきっかけに一般のフランス人の食卓にもクスクスが浸透したとされます。
ちなみに著者によると、フランス人は年間6万6000トンのクスクスを消費しており、ヨーロッパではずば抜けて多いのだそうです。
人口6706万人で割ってみると、一人年間1kg程度。
ただ、高齢者を中心に一度も食べたことがない人が36%というので、食べたことがある人の平均で年間1.5kgということになります。
国民食というほどには多くない印象ではありますが。
クスクスがどんな食べものなのか、その製法、戻し方、レシピについては、以前に以下のブログに書きましたので、ご参照ください。
2 連帯クスクス?
「連帯クスクス」という言葉が印象的でした。
北アフリカでは、イスラムの休日である金曜日は「クスクスの日」とされて、貧しい人たちに食べてもらうために寺院にクスクスを持って行く姿が見られるといいます。
また、パリでも、毎週金曜日にはクスクスが無料で食べ放題になるカフェがいくつもあるとのこと。
ヨーロッパで、フランスについでクスクスをよく食べるのがイタリア。
年に一度の盛大なクスクス祭りを開くシチリア島では、日曜日がクスクスの日とされています。
知らなかったのですが、一部のユダヤ人も、休息日である土曜の前日、つまりは金曜の夜にクスクスを食べるのが慣わしとのこと。
イスラエルでは、近年「聖書料理」と呼ばれる動きがあり、クスクスは聖書にも出てくる食材なのだそうでクスクスを使った「新伝統料理」が開発されているのだといいます。
つまり、イスラム教徒も、キリスト教徒も、ユダヤ教徒も宗教を超えてクスクスを食べる、というわけです。
特に北アフリカでは、鍋料理のようにみんなでたっぷりのクスクスを同じ皿から取り合って食べるのが普通で、冠婚葬祭にはクスクス料理が欠かせない存在なのだとか。
食べものがない人を出さないこと、それを可能にするのがクスクスと考えられているのだそうです。
錬金術を意味するキミアという言葉を使って、人数分用意していたところに後から人が加わっても、クスクスは「キミア」なので足りないことはなく、一人の取り分が少なくなることについて文句をいう人はいないという北アフリカでの食のあり方も面白いと思いました。
3 イベリア半島でクスクスを食べない理由
過去に食べられていた記録があるのに、今はクスクスを食べない地域がイベリア半島。
理由は、11世紀前半のレコンキスタ(キリスト教徒による国土回復運動)の時代に、イスラム文化圏の食であるクスクスも、豚肉と同様にいわば踏み絵のように考えられたからというのには、なるほどと思いました。
昆布がどうして沖縄でよく食べられているのかの理由が、中国と薩摩藩の密輸が原因だったとする「昆布と日本人」の記述にハッとさせられた記憶が蘇りました。
食を通じて歴史を学ぶこともできると、改めて思います。
食いしん坊の私にとっては、記憶に刻み込まれることになるのです(笑)。
4 さまざまなクスクス料理
この本の中には、著者が各地で食べたクスクス料理も多数紹介されていて、それらはとても美味しそうです。
スープに入れてミネストローネのように食べたり、甘い味付けにしたり、魚介類とともに食べたりとバリエーション豊かです。
また、著者は、デュラム小麦で作るクスクスだけではなく、スペインで食べられているミガスというパンを使った料理や、サルディーニャのフレゴラという揚げパスタもその仲間とし、またキャッサバやとうもろこしの粉で作るサンパウロ名物のクスクスパウリスタや、セネガルのトウジンビエや、山芋の粉で作るクスクスなど、クスクスをより広く解釈しています。
あれこれ食べてみたくなります。
5 「食を読む」楽しみ
私たちにとって最も身近な食。
それぞれの食材に、それぞれの歴史があります。
中には、その食べもののために戦争や略奪が起きた、なんていうこともありました。
胡椒など、まさにその典型です。
食の歴史の本を読むことはまた、人の歴史を知ることでもあるのだなと思います。
そんな楽しさから、食に関する本を読むのが大好きなのです。
この「クスクスの謎」とても読みやすく、薬草文化などについても触れられていて、とても興味深いです。
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