684日の世界旅行で出会った「食べる。」〜中村安希さんの本を読んで

サステナブル料理研究家、一般社団法人DRYandPEACE代表理事のサカイ優佳子です。

2011年からは特に、現代のライフスタイルに合わせた乾物の活用法の研究、発信に力を入れています。

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ある本を読んだらおもしろくて、その著者の別の本を読んでみよう!ってなるのは、楽しいなって思います。

今回は、そんなことで出会った「食べる。」という本について、ご紹介させてください。

ほぼ同じ内容の音声配信はこちらでお聴きいただけます。

standFM 「サカイ優佳子の 食卓で世界旅行

1 読書会で紹介していただいた本

ある日の読書会で参加してくださった方にご紹介いただいた「もてなしとごちそう」という本が、とてもおもしろかったのです。

きっかけは、2月に開催したオンライン読書会。

参加してくださった方が持ち込んだ本「もてなしとごちそう」は、旅と食が大好きな私の心に響きました。

そんなわけで、著者の中村安希さんに興味をもち、他の本も読んでみようと早速図書館で予約を入れたのです。

そのうちの一冊が、「食べる。」という文庫本でした。

684日間に渡って世界を旅する中でのできごとが描かれています。

例えば、エチオピアでは、日本人旅行者には「ゲロ雑巾」として知られる主食「インジェラ」を味わいます。

ネパールでは、目の前で屠殺したヤギの内臓や皮膚の料理でお腹がいっぱいに。

モンゴルでは、「野菜を食べたことがない」という老紳士に出会います。

スリランカでは、「乾燥した魚肉片」を口にして「かつお節?」という感想を漏らします。

モザンビークの屋台で、「ママ」が作るキャッサバのココナッツミルク煮のできあがりをのんびりと待つ時間もあります。

世界のさまざまな場所での、人や食との出会いが描かれていて、その旅の情景が浮かびます。

2 人との距離の変化?

この「食べる。」は、2014年に文庫版が出ています。

「もてなしとごちそう」が書かれたのは、2020年、著者は40代に突入したところです。

「食べる。」では、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、「あなたはあなた、私は私」と人を突き放したような雰囲気を所々に感じます。

それは著者の若さでもあり、女一人で世界を旅して歩く中で、いやでも身につけなければならなかった「冷たさ」、人との距離なのかもしれません。

近著の「もてなしとごちそう」においては、この「食べる。」よりも、人との心理的な距離がぐっと近くなっているように感じます。

過酷とも言える旅を終えてしばらく経って、著者の視線も、気持ちのあり方や人との接し方も変わったのでしょうか。

「もてなしとごちそう」には、距離を超えての人の繋がりの尊さ、人のあたたかさを感じました。

【食を読む】「もてなしとごちそう」コロナで遠くなった、あの悦び

3 本を読んで思い出したこと

モルディブフィッシュ。カチンカチンです。

モルディブフィッシュ

「食べる。」というタイトルではありますが、この本の中の食は、人との出会いや出来事の背景、名脇役として描かれています。

例えば著者が「かつお節?」と思ったものが何なのか、インジェラは何からどう作るから「ゲロ雑巾」と言われるほどに酸っぱいのかなどについてを追求しようとはしません。

著者の目は、食べものそのものではなく、情景や出来事のなかにある食に、あるいは食がきっかけになった出会いや道行きに向けられています。

ちなみに、著者が「かつお節?」と思った魚肉片は、おそらくモルディブフィッシュ。

カビを生やすことはしないものの、日本のかつお節とほぼ同じ作られ方をしています。

私も買って食べてみたことがありますが、カチンカチンに硬いです。

モルディブやスリランカの料理には、これがベースに使われると聞いています。

インジェラ

私がインジェラを初めて食べたのは1991年、ケニアのエチオピア料理店ででした。

エチオピアの新年だというのに、内戦の危険から祖国に帰れない寂しさで涙を流しながら新年を祝っている亡命エチオピア人たちと一緒でした。

写真は残っていないのですが、今でもインジェラの見た目と美味しさが記憶に残っています。

私にとっては、「ゲロ雑巾」ではありませんでした。

店に入ると美しいポットから水をたらしてくれるので、その水で手を洗ってから席につきます。

直径1mほどで高さが20cm程度のカゴのように木で編み、上が平らな器?の上に広げられたインジェラの上に、ワットと呼ばれる肉の煮込みや野菜の和えものなどさまざまな料理がおかれていました。

インジェラは、テフという穀物を粉にしたものを発酵させて作ります。

テフを主食にしているのは、エチオピアだけといいます。

これをちぎりながら、上にのったおかずと一緒に食べるのです。

この日、「新年を一緒に祝って!」と、生肉をご馳走になりました。

大きな塊の肉には、赤い香辛料がたっぷり振りかけてありました。

今思えば、おそらくはエチオピアのミックススパイス、バルバレだったのだと思います。

ナイフで切り取って、100g以上はありそうな量を渡されました。

そして、食べたあとは、彼らの祖国の平和を祈りながら彼らとともに踊りました。

インジェラの美味しさに感激して、帰国後すぐに都内にあるエチオピア料理店を訪れましたが、そこまでの感動は残念ながら得られませんでした。

4 旅好きな人は注意

食への関心が半端ない自分としては、食に関してのツッコミがもう少し欲しいなあと思ってしまうところはあります。

でも、それはないものねだりとわかっています。

旅好きとしては、著者が描く人間模様やその土地の風景に、旅心を存分に刺激されながら最後まで読んでしまいました。

コロナで簡単には海外に出ることができない今、読む人はちょっと注意が必要かもしれませんね。

旅に出たくなります!

解説は、森枝卓士さん。

なるほど、の人選です。

森枝さんの解説を読んだ旨お伝えしたら、

「彼女は立派な旅人でしょ?食の表現者としてもたいへんなもの。食がメインじゃないけれど。」

との返信がありました。

すごい旅人と思いました。旅に出たくなりますね。この次は『インパラの朝』が控えています。」

食がメインには描かれていない「食べる。」というこの本からは、人はどんな状況にあっても食べずには生きていけないという事実が浮かび上がってきます。

この本の中で描かれる食は、「美食」ではありません。

「食べる」の後にある「。」が、

今日も「食べる」そして1日が終わる、そしてまた一歩進む。

そうやって旅の一日一日を生きていく、著者の決意の現れのように感じられるのです。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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