子どもたちが毎日食べる学校給食。
その食材費が、地域で農業を続ける人の安定した収入になり、子どもたちが地域の食文化や農業を学ぶ機会にもなったら――。
そんな仕組みを、国の法律として実現しているのがブラジルです。
友人のお嬢さんが日系ブラジル人と結婚して子どもができ、ブラジルの保育園に子どもを通わせています。
facebookに保育園での給食のメニューを投稿していたのをみて驚きました(上の写真)。
なんか、とってもヘルシーでおいしそう!
そこで、ブラジルの学校給食について調べてみることにしました。
ブラジルの学校給食制度「PNAE」では、学校給食に使われる連邦資金のうち、少なくとも45%を「家族農業」から直接購入することが、2026年から義務づけられています。
単なる国産品の優先にとどまりません。
学校のある自治体や近隣地域の農業者を優先し、農地改革の入植者、先住民族、キロンボラと呼ばれる伝統的共同体、女性、若手農業者、有機・アグロエコロジー農業者などが参加しやすい仕組みも設けられています。
この制度は、子どもの栄養政策であると同時に、農業政策、地域経済政策、食育政策でもあります。
日本でも、こんな仕組みを採用できないでしょうか。
ブラジルの学校給食制度とは
ブラジルのPNAEは、約4,000万人の児童・生徒を対象とする大規模な学校給食制度なのだそうです。
中心となるのは、2009年に成立した法律第11,947号。
この法律は、学校給食をすべての公立学校の子どもが持つ権利として位置づけ、次のことを定めました。
- 栄養士が献立を作成する
- 地域の食習慣、文化、伝統を尊重する
- 地域農業の多様性と持続可能性を考慮する
- 食と栄養に関する教育を学校教育に組み込む
- 学校給食予算の一定割合を家族農業から直接購入する
2009年に家族農業からの最低購入割合を30%として始め、2026年1月からは45%へ引き上げています。
ここで重要なのは、単に「地元産を使いましょう」と呼びかけているだけではないことです。
「最低何%を購入するか」まで法律で決め、農業者が実際に公共調達へ参加できるよう、通常の競争入札とは異なる公募方式を設けています。
なぜ、この仕組みが生まれたのか
ブラジルがこの仕組みを作った背景には、二つの問題があったのだそうです。
1)飢餓と栄養の問題
子どもや低所得世帯が十分な食事を得られない、。
2)農村の貧困と販路不足の問題
地域の小規模な農業者が農産物を作っても、安定した販売先を確保できない、
かつてのブラジルの学校給食は中央集権的で、全国一律の調達になりやすく、地域の食文化や農業とのつながりが弱い制度でした。
その後、1990年代に調達権限を州や自治体へ移したものの、今度は公共入札が大きな壁になりました。
小規模な農業者は、書類、供給量、配送、規格などの面で大手納入業者と同じ条件では競争できなかったからです。
そこで考えられたのが、
政府がすでに使っている学校給食費を、地域の農家に届くように組み替える
ことでした。
2003年には、ルーラ政権の「飢餓ゼロ政策」の一環として、政府が家族農業者から食料を直接購入するPAAという制度が始まります。
この制度で直接購入の実務経験を積み、それを全国の学校給食に拡大したものが、2009年のPNAE改革でした。
制度づくりには、行政だけでなく、家族農業者、農民運動、市民社会、栄養の専門家、教育関係者などが参加したそうです。
つまり、上から与えられた制度というより、農業者の「補助金だけでなく、作ったものを正当な価格で買ってほしい」という要求と、子どもに新鮮で地域らしい食事を提供したいという要求が結びついて生まれたのです。
学校給食費を地域で循環させる
ブラジルの仕組みは、次のようになります。
この循環の優れたところは、一つの学校給食予算で複数の社会課題に働きかけられることです。
| 学校給食費が生み出す効果 | 内容 |
|---|---|
| 子どもの健康 | 新鮮で多様な食材を使った食事を提供する |
| 食育 | 食材、生産者、地域の食文化を「生きた教材」にする |
| 農業者の所得 | 公共調達という安定した販売先をつくる |
| 農業継続 | 作付け計画を立てやすくし、離農を防ぐ条件を整える |
| 地域経済 | 食材費を地域内で循環させる |
| 環境 | 旬の食材、有機・アグロエコロジー農業を支援する |
| 農業承継 | 女性や若手農業者が販売主体になる機会を増やす |
パラナ州の有機農業者44人を対象とした調査では、PNAEへの供給を始めた後、75%が作物を多様化し、81.8%が家族の農場への回帰を報告しています。
小規模な自己申告調査なので全国的な因果関係までは断定できませんが、「学校給食という安定した販売先が、農業を続ける理由になり得る」ことを示す結果です。
給食そのものが食育になる
ブラジルでは、食育も法律上の重要な柱です。
食育は単発の講演会やイベントではなく、学校の教育課程を横断する継続的な活動として位置づけられています。
学校給食、食材、調理室、食堂、学校菜園などを、教育のための道具や場所として使うことも定められています。
たとえば、次のような学びが考えられます。
生産者が学校を訪問したり、子どもが農場を見学したりすれば、給食は地域社会と学校をつなぐ入口になります。
「野菜を残さず食べましょう」という指導だけでなく、食べ物の背景にある仕事、自然、地域経済まで学ぶ。それがブラジルの食育の考え方です。
日本にも、すでに土台はある
実は、日本の学校給食法も、地場産物と食育を重視しています。
学校給食法第10条では、栄養教諭が地域の産物を給食に活用し、地域の食文化、食に関わる産業、自然環境について子どもの理解を深めるよう努めるとされています。学校給食法
また、2024年度の学校給食における地場産物の使用割合は、全国平均で金額ベース56.4%、国産食材は89.4%でした。農林水産省「令和6年度食育白書」
この数字だけを見ると、日本はブラジルより進んでいるようにも見えます。
ただ、二つの数字は単純には比較できません。
ブラジルの45%は、「連邦政府から交付された給食資金のうち、法律上の家族農業者から直接購入する割合」です。
一方、日本の56.4%は「地場産物の使用割合」であり、必ずしも地域の小規模農業者から直接購入した割合ではありません。調査方法や「地域」の定義も異なります。
日本では地場産物の活用は推進されていますが、ブラジルのように、
- 小規模・家族農業者からの最低購入割合
- 地域の供給者を選ぶ全国共通の優先順位
- 女性・若手・新規就農者などの優先
- 小規模農家が参加しやすい専用の公共調達方式
までを一体的に定めた全国制度にはなっていません。
日本版を作るなら
もちろん、ブラジルの制度を、そのまま日本へ移す必要はありません。
日本の自治体、JA、学校給食会、給食センター、生産者団体、既存の食品流通を生かしながら、日本版として設計することが現実的です。
たとえば、次のような仕組みが必要かな〜と。
1. 地域農林水産物の最低購入目標を設ける
2. 小規模生産者向けの調達枠をつくる
3. 献立と作付け計画をつなぐ
4.食育までを購入契約の一部として考える
5. 地産地消コーディネーターを配置する
5についてはとくに、
- 給食側の需要をまとめる
- 地域の生産状況を把握する
- 複数農家の出荷を調整する
- 配送・集荷を組み立てる
- 献立と旬を調整する
- 生産者と学校の食育活動をつなぐ
などの専門のコーディネーターが必要だと考えます。
農林水産省も、衛生管理、規格、配送時間、安定供給などを地場産物活用の課題として挙げ、コーディネーター派遣やガイドブックの提供を行っています。農林水産省「学校給食での地場産物等の活用」
日本で目指したいのは「給食を中心にした地域の循環」
日本では、農業者の高齢化、担い手不足、耕作放棄地の増加、地域の食文化の継承などが大きな課題になっています。
一方、学校給食は毎年、全国で確実に発生する公共需要です。
この需要を地域農業と計画的に結びつければ、学校給食費は単なる消費ではなく、未来への投資になるのではないでしょうか。
子どもは、新鮮で地域らしい食事を食べる。
農業者は、安定した販売先を得る。
地域では、食材費が循環する。
学校では、実際の食材と生産者を通して、食、農業、環境、仕事について学ぶ。
そして、子どもたちが大人になったとき、地域の食と農業を支える消費者、あるいは生産者になっていく。
ブラジルの制度が教えてくれるのは、学校給食には、子どもの空腹を満たす以上の力があるということです。
日本でも、一部の熱心な自治体や栄養教諭、生産者の努力だけに任せず、農業を続けられる仕組みとして制度化することが必要なのではないでしょうか。
学校給食で、地域の農業を支える。
地域の農業で、子どもたちの未来を育てる。
そんな循環を、日本でも本気で考える時期に来ていると思います。






