先日、友人からちょっと驚く話を聞きました。
子ども向けの絵本の読み聞かせをしていたときのこと。
一緒に参加していたお母さんたちの中に、
「枝豆が大豆になることを知らなかった」
という方が何人かいたそうです。
さらに、
「まめもやしは、大豆を発芽させたものなんですね」
と初めて知った方もいたとのこと。
その絵本は
「だいず えだまめ まめもやし」(こうやすすむ著 なかじまむつこ イラスト)
料理を仕事にしている私にとっては、大豆も枝豆も、豆もやしも身近な存在です。
でも、よく考えてみれば、スーパーでは枝豆は野菜売り場、大豆は乾物や豆の売り場、もやしはまた別の場所に並んでいます。
姿も食べ方もずいぶん違います。
だから、
「枝豆が成熟すると大豆になる」
「その大豆を発芽させると大豆もやしになる」
ということを、知らなくても不思議ではないのかもしれません。
私たちは豆をよく食べているけれど、豆そのものについては、案外知らないことが多いのかもしれない。
そんなことを思いました。
そして豆について少し深く知ってみると、さらに面白いことがわかります。
大豆、小豆、いんげん豆、えんどう豆、そら豆など、私たちの食卓でおなじみの豆たち。
その多くが属するマメ科植物は、実は「食べ物」としてだけでなく、農業や地球環境にとっても、とても重要な存在なのです。
その秘密は、地上に見えている豆ではありません。
土の中の「根っこ」にあります。
マメ科植物が環境にいいと言われるのはなぜ?
野菜や穀物などの作物が育つためには、「窒素」が欠かせません。
窒素は、植物が葉や茎を成長させたり、たんぱく質を作ったりするために必要な栄養のひとつです。
そこで現代の農業では、窒素を含む化学肥料が広く使われています。
化学肥料のおかげで、限られた農地から多くの作物を収穫できるようになりました。私たちの食生活を支える、とても重要な技術です。
ただし、使った肥料を作物がすべて吸収するわけではありません。
余った窒素は、雨などによって土壌から流れ、地下水や河川、さらに海へと運ばれていきます。
水中に窒素などの栄養が増えすぎると、藻類などが大量に増え、それらが分解される際には、酸素が使われます。
その結果、魚や貝などが生きにくくなる「貧酸素」の状態につながることがあります。
また、農地からは窒素に由来する一酸化二窒素(N₂O)という強い温室効果ガスが発生することもあります。
つまり、
「作物を育てるために窒素は必要。でも、使いすぎると環境への負担になる」
という難しい問題があるのです。
そこで注目されるのが、マメ科植物です。
理由1 根っこの中に「天然の肥料工場」がある
大豆やえんどう豆、そら豆、クローバーなどのマメ科植物の根には、小さなこぶのようなものができることがあります。
これを根粒(こんりゅう)といいます。
この根粒の中には、根粒菌という微生物が暮らしています。
この根粒菌が、すごい仕事をしているんです。
空気のおよそ8割は窒素です。
それなら、
「植物が空気中の窒素をそのまま使えばいいのでは?」
と思いますよね。
ころが、多くの植物は、大気中の窒素をそのまま栄養として利用することができません。
空気中の窒素は、とても安定した状態で存在しているため、植物がそのまま取り込んで使うことが難しいのです。
そこで登場するのが、根粒菌です。
根粒菌は、大気中の窒素を、植物が利用できる形へと変換してくれます。
その代表的な形がアンモニアです。
(植物の中では主にアンモニウムという形で利用されます)
このように、空気中の窒素を植物が使える栄養の形に変える働きを、
「窒素固定」
といいます。
実は、人間も同じように、大気中の窒素から植物が利用できるアンモニアを工業的に作り出しています。
これが化学肥料の製造につながっています。
ただし、人間が工場でアンモニアを作るには、高温・高圧の条件のため、大量のエネルギーが必要です。
一方で、根粒菌は、植物の根の中という穏やかな環境で、必要な分だけ窒素固定を行っています。
まさに自然が作り出した、小さな「肥料工場」!
考えてみれば、すごいことですよね。
マメ科植物の根の中に、小さな「天然の肥料工場」がある。
そんなふうに考えると、イメージしやすいかもしれません。
理由2 化学肥料への依存を減らし、土を豊かにする
マメ科植物は、収穫して食べるだけではありません。
農業では緑肥として利用されるものもあります。
緑肥とは、植物を育てたあと、土にすき込んで肥料や土壌改良に利用する方法です。
たとえば、クローバーなどのマメ科植物が使われます。
マメ科植物は根粒菌から窒素の供給を受けられるため、土壌中の窒素が少なくても比較的育ちやすい植物です。
そして、育った植物を土に戻せば、その植物に含まれる有機物や窒素を次の作物づくりに生かすことができます。
つまり、
肥料を外から入れるだけではなく、畑の中で自然の循環を作ることができる
というわけです。
緑肥としてマメ科植物を上手に利用すれば、化学窒素肥料の使用量を抑えることが期待できます。
その結果、地下水や河川、海への窒素の流出を減らすことにもつながります。
もちろん、
「マメを植えれば化学肥料が一切いらなくなる」
という単純な話ではありません。
作物や土壌、気候、栽培方法によって条件は違います。
それでも、自然がもともと持っている仕組みを農業に上手に取り入れることには、大きな意味があります。
理由3 マメ科植物と根粒菌は「助け合い」をしている
さらに面白いのが、マメ科植物と根粒菌の関係です。
根粒菌だけが一方的に植物を助けているわけではありません。
植物は光合成によって作った糖などを根粒菌に渡します。
根粒菌はそれをエネルギー源にして窒素固定を行い、植物に窒素を供給します。
つまり、
「私はあなたにエネルギーをあげるから、あなたは私に窒素をちょうだいね」
という持ちつ持たれつの関係なのです。
しかも、この仕組みはかなり精密です。
窒素固定を行う酵素が働くためには、「鉄」が欠かせません。
最近の研究では、マメ科植物が体内の窒素の状態を感知し、「IMAペプチド」と呼ばれるシグナル因子などを使って、必要な鉄を根粒へ集める仕組みも明らかになってきています。
参考 : 東京大学大学院農学生命科学研究科 「植物が共生菌への鉄供給によって窒素を得る仕組みを解明」
植物は、ただ土に生えているだけではありません。
体の中の状態を見ながら、
「今、窒素は足りているのか」
「窒素固定のために鉄をどこへ運ぶのか」
と調整しているのです。
植物の世界って、知れば知るほど面白いですね。
豆は「食べるもの」だけではなかった
枝豆を食べ、大豆からできた豆腐や味噌、納豆を食べ、大豆もやしを炒め物やナムルにする。
私たちは日常の中で、知らず知らずのうちにたくさんの形で豆を食べています。
でも、その豆が畑にあるときには、
根粒菌と協力して大気中の窒素を利用し、土や農業の環境まで支えている。
そう考えると、いつもの豆が少し違って見えてきませんか?
「豆はたんぱく質が豊富だから」
「乾物だから保存がきくから」
もちろん、それも豆の大きな魅力です。
でも、マメ科植物は、食卓だけではなく、地球環境にとっても重要な仕事をしているんですよね。
そんなことを知ると、いつもの豆料理が、少し面白く感じられるかもしれません。
身近なのに、意外と知らない「豆」。
小さな一粒の向こうには、まだまだ面白い世界が広がっています。







