その「青のり」、みんな同じだと思っていませんか?

青のりはみんな同じ?

「青のり」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?

たこ焼きやお好み焼きに振りかける緑色の粉?

それとも、味噌汁に入れるアオサでしょうか?

すじ青のり、アオサ、アオサノリ、、、、乾燥させて細かくすると緑色なので、同じものだと思われがちです。

でも、実は別の海藻なんです。

先日、徳島県のすじ青のりを食べる機会があったのですが、その香りの強さに驚きました。

しかも、食べたのは、お好み焼きでもたこ焼きでもなく、すき焼きで!

これが、抜群においしかったのです。

今回は、意外に知られていない「すじ青のり」について、アオサやアオサノリ(ヒトエグサ)との違い、吉野川での育て方、一般的な海苔との収穫方法の違い、さらにシーベジタブルという会社が取り組む陸上栽培について調べてみました。

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すき焼きに、すじ青のり?

すじ青のり

9月に、あるコミュニティの合宿に参加しました。

その時、同じ班にいた徳島県の鳴門金時を育てる農家さんが、知り合いが作っているからと、すじ青のりを持ってきてくれました。

その日の料理は、たまたますき焼き。

そこで、すじ青のりをトッピングして食べてみました。

すき焼きに、すじ青のり?

最初はちょっと意外な組み合わせだと思ったのですが、これがとてもおいしい!

湯気と一緒に、香りがふわっと立ち上がります。

肉の脂や割り下の甘辛い味にも負けません。

むしろ、すじ青のりの香りが加わることで、すき焼き全体がワンランクアップしたように感じました。

「これは、いくらでも食べられそう」

すじの形を残したまま食べると、しっかり存在感があります。

その体験が心に残っていました。

そして先日、徳島県の食の生産者さんたちが集まる展示発表会に参加した時、そのすじ青のりを作っている生産者さんに、直接お会いすることができました。

「青のり」として売られていても、原材料が違う?

青のりアオサ

たとえば、三島食品さんの「青のり」の原材料名は「青のり」とあり、注意書きとして「国産すじ青のり100%使用」とあります。

オタフクソースさんの「青のり」も「国内産のすじ青のり(「あおさ」ではありません)を原料に使用しております。」という注意書きがあります。

製造元ととやさんの「青のり」の原材料は「ヒトエグサ」。

乾燥させて粉にすると、どれも緑色なので、消費者が同じものだと思ってしまうのも無理はありません。

でも、生物として見ると、それぞれ違います。

すじ青のり

すじ青のりは、細長い糸のような形をした緑藻です。

「アオサ属」に含まれますが、一般的な葉状のアオサとは別の種類です。

生の状態では、細長い管のような形をしています。

香りが非常に強く、青のりの中でも高級品として扱われています。

アオサ

一般に「アオサ」と呼ばれるアナアオサなどは、平たい葉のような形をしています。

乾燥させて粉末にしたものは、たこ焼きやお好み焼き、スナック菓子などにも使われます。

すじ青のりと比べると比較的生産しやすく、価格も抑えられるため、広く流通しています。

アオサノリ(ヒトエグサ)

味噌汁や佃煮などに使われる「あおさのり」は、ヒトエグサを指すことが多いです。

ヒトエグサは薄い膜状の海藻で、すじ青のりとは別の仲間です。

市場ではヒトエグサを「あおさ」「あおさのり」「青のり」と呼ぶこともあります。

商品名だけでは、原料の海藻が何なのか分かりにくい場合もあるのです。

「どれも緑色だから同じ」ではないのですね。

そして、食べ比べてみると、特に香りの違いがよく分かります。

吉野川の汽水域で育つすじ青のり

徳島県の公式サイトによると、徳島県産のすじ青のりは全国生産量の7~8割、養殖に限ると98%を占めると紹介されています。
(*ただし、この数字については統計年が明記されていません。)

それほど、すじ青のりは徳島県と深いつながりがある食材なんですね。

徳島県のすじ青のりを語るうえで欠かせないのが、吉野川です。

吉野川の河口付近は、川から流れてくる淡水と、紀伊水道から入ってくる海水が混ざり合う「汽水域」です。

水温や塩分は、雨の量や潮の満ち引きによって常に変化します。

すじ青のりは、この変化の大きな環境で育ちます。

吉野川でのすじ青のりの育て方

すじ青のりの養殖は、「ノリ網」と呼ばれる網に胞子を付けるところから始まります。

この作業を「採苗」といいます。

吉野川では、例年10月頃から採苗が始まります。

最近は海水温が高くなり10月の下旬以降のことが多いとのこと。

採苗方法

採苗には、主に二つの方法があります。

天然採苗

種場と呼ばれる場所に支柱を立て、そこにノリ網を固定します。

吉野川に自然に存在するスジアオノリの胞子が網に付着し、少しずつ網が緑色になっていきます。

その網を「種網」と呼びます。

今回お会いした生産者さんが行っているのは、この天然採苗だそうです。

天然採苗は、その年の水温、雨量、塩分、潮の動きなどに大きく左右されます。

人工採苗

もう一つが人工採苗です。

すじ青のりの母藻を細かく切り、成熟を促します。

すると母藻から胞子が放出されます。

その胞子を水槽の中でノリ網に付着させ、種網を作ります。

人工採苗には、必要な種網を比較的安定して作れるという利点があります。

ただし、人工採苗であっても、もとになるのは自然界から採取された母藻です。

「養殖」といっても、自然と切り離されているわけではないのですね。

網を水面上に出す「干出」という作業

種網を育てる時には、潮の満ち引きを利用して、網を水面上に出す「干出」も行われます。

網を空気に当て、少し乾かすのです。

適度な干出を行うことで、芽の数が調整され、丈夫な種網になると考えられています。

ただし、長く乾かせばよいわけではありません。

徳島県の研究によると、天然採苗で付着したばかりの小さな芽は、1回の干出が3時間を超えると収量が減る可能性があるとされています。

一方、少し大きくなった芽は乾燥に強くなります。

水温、潮の動き、干出時間、網を張る高さ。

毎年違う自然の状態を見ながら、細かく調整しているのですね。

11月に始まる本養殖

種場で育てた種網は、11月になると養殖漁場へ移されます。

ここからが「本養殖」です。

養殖方法には、主に二つあります。

  • 水深の浅い場所で行う「支柱張り方式」
  • 水深の深い場所で行う「浮き流し方式」

種網を漁場に張ると、すじ青のりはぐんぐん伸びていきます。

条件がよければ、2~3週間ほどで20~50センチまで成長します。

乾燥した細かい青のりしか見たことがないと、20~50センチという長さは、ちょっと意外ですよね。

収穫のピークは、11月から1月頃の冬期です。

ただし、雨が多くて川の塩分が急激に下がったり、濁流が発生したりすると、成長が悪くなることがあるのだそうです。

水温の上昇も大きな問題です。

吉野川のすじ青のりは、自然環境の変化を強く受ける食材なのです。

板のりとの育て方の違い

一般的な板海苔と、すじ青のり。

収穫方法にも大きな違いがあるんですね。

今回お話を伺って、初めて知りました。

板海苔の原料になるスサビノリなどは、伸びた部分を摘み取っても、網を漁場に残します。

その後、再び成長したところを摘み取ります。

有明海の例では、7~10日ほどの間隔で、同じ網から複数回収穫します。

秋芽網では2~4回、冷凍保存しておいた網(というのもあるそうです)では5~8回ほど収穫するそうです。

病気を防ぐため、網を干出させたり、有機酸を使った「活性処理」を行ったりもします。

活性処理とは、海苔を網ごと酸性の液体に浸すことで、病気予防や他の海藻の除去、海苔の成長を促す管理技術のことをいいます。

一方、吉野川のすじ青のりは、20~50センチまで成長したところで、網ごと船へ引き揚げます。

普通ののりと違って、一枚の種網から収穫できるのは、基本的に一度だけです。

収穫した後は、新しい種網を漁場に張ります。

同じ網から何度も刈り取るのではなく、

「育てる→網ごと収穫する→新しい種網に交換する」

を繰り返します。

同じ「ノリ網」を使う養殖でも、一般的な板海苔とすじ青のりでは、育て方も収穫方法もかなり違うのですね。

今回、生産者さんにお話を伺って、一枚の種網からは一回だけだし、「消毒」もしないということ、初めて知りました。

川ではなく、陸上ですじ青のりを育てる会社も

では、すじ青のりは、吉野川のような汽水域でなければ育てられないのでしょうか?

合同会社シーベジタブルでは、すじ青のりの陸上養殖を行っています。

高知県を拠点に、さまざまな海藻の研究、生産、商品開発に取り組んでいる会社で、社長の友廣祐一さんは、彼がこの仕事に取り組む前から知っています。

かつて天然すじ青のりの主産地だった高知県の四万十川では、河口部の水温上昇に伴って収穫量が減り、2020年には出荷量が0になってしまいました。

そこで同社は、地下からくみ上げた海水を使い、陸上の水槽ですじ青のりを育てる技術を開発、事業をスタートしたといいます。

2016年、地下海水を利用したすじ青のりの陸上栽培による量産を、世界で初めて実現しました。

現在は、北は岩手県、南は熊本県まで、全国各地に生産拠点を設けています。

地下海水を使って育てる

海の近くで地下を掘ると、地中に浸透した海水をくみ上げられる場所があります。

これが地下海水です。

地下海水は、砂や地層を通ることで自然にろ過されます。

シーベジタブルが利用する地下海水には、次のような特徴があるといいます。

  • 清浄で異物が少ない
  • ミネラルを含んでいる
  • 外気や表層の海水より温度が安定している

吉野川の養殖では、雨や増水、潮の影響によって塩分や水温が変化します。

一方、地下海水を使う陸上栽培では、水温や水質を比較的安定させることができます。

また、川や海での養殖に比べて、小石、ほかの海藻、小さな生物などの異物が入りにくいことも利点です。

浅くて広い水槽で太陽の光を当てる

シーベジタブルでは、地下海水を入れた、浅くて広い水槽ですじ青のりを育てています。

水深を浅くすることで、すじ青のり全体に太陽の光が届きやすくなり、すじ青のりは、海水に含まれる栄養を吸収し、光合成をしながら成長します。

ミネラルを含む地下海水と、まんべんなく当たる太陽の光。

この二つを活用し、色が濃く、香りの強いすじ青のりを育てているそうです。

母藻の採取から種苗生産、生産、加工までを自社で行っていることも特徴。

全国各地から集めた母藻をもとに種苗を作り、季節に合う系統を選びながら育てて、収穫後は、鮮度がよいうちに乾燥させます。

そのため、雑味が少なく、すじ青のり本来の繊細でさわやかな香りを残せるといいます。

一年を通して「生のすじ青のり」も生産

吉野川のすじ青のりは、冬を中心とした限られた時期に収穫します。

一方、環境を調整できる陸上栽培では、一年を通して生産できます。

乾燥品だけでなく、一般にはほとんど流通していない「生のすじ青のり」を安定して作れるそうです。

生のすじ青のりは、鮮やかな緑色で、絹のように柔らかな食感があるのだとか。

揚げ物にすると、すじ青のり本来の香りが引き立つと紹介されています。

乾燥した青のりだけでなく、生の状態でも食べられる。

これは、すじ青のりを「振りかけるもの」ではなく、一つの野菜のように食べる可能性を広げてくれそうです。

吉野川の養殖と、陸上栽培の違い

吉野川の養殖と、シーベジタブルの陸上栽培を整理してみました。

すじ青のり川と陸上

吉野川の養殖には、その土地の水や気候、生産者さんの経験が反映されています。

一方、陸上栽培には、気候変動の影響を抑え、安定して供給できるという利点があります。

自然を読みながら育てる方法と、環境を整えて育てる方法。

どちらも、日本のすじ青のりを未来へ残すための方法として発展していってほしいです。

粉末をだしに溶かした試食では、香りが分かりにくかった

ところで、展示発表会の試食では、吉野川のすじ青のりを細かい粉末にし、市販のだしに溶かしたものが提供されていました。

でも、正直にいうと、

「これでは、すじ青のりのおいしさが伝わらない」

と思いました。

市販のだしの味が前に出てしまい、肝心のすじ青のりの香りが、ほとんど分からなかったのです。

もちろん、だしに入れる食べ方が悪いわけではありません。

すじ青のりは、汁物との相性もよい食材です。

ただ、初めての人に「アオサとの違い」や「香りの強さ」を伝える試食としては、もったいないと思いました。

そこで、生産者さんに、

「細かくせず、すじの形のまま一口ずつ食べてもらった方が、絶対においしさが伝わります」

と、つい提案してしまいました(笑)。

後日、別の方から、その後の会では実際に試食方法を変えていたと聞きました。

「アオサとの香りの違いを伝えたいなら、同じ条件で食べ比べてもらうのもいいと思います」ともお伝えすればよかったなあ、と後になって思いました。

乾物クイズに挑戦

「本物をそのまま食べる」から伝わること

生産者さんがどれほど丁寧に作っていても、最後の「伝え方」で、その価値が伝わらないことがあります。

すじ青のりを粉末にして料理に加える方法も、もちろん一つの食べ方です。

お好み焼き、たこ焼き、天ぷら、汁物、ポテトチップスなど、幅広く使えます。

でも、すじ青のりを初めて食べるなら、まずは細かくせず、そのまま口に入れてみてほしいと思います。

そして、できればアオサと食べ比べてみる。

説明をたくさん聞かなくても、香りの違いがよく分かるはずです。

シーベジタブルでも、すじ青のりはオイル、バター、チーズなどと相性がよいと紹介しています。

また、すじ青のりの香りは高温で飛びやすいんですよね。

すき焼きにのせたすじ青のりがおいしかったのも、脂との相性と、食べる直前に加えたことが関係していたのかもしれません。

知られていないからこそ、驚きがあります

すじ青のりについて、意外に多くの人が知りません。

「アオサと同じでしょう」

と思っている人も多いのではないでしょうか。

実際、試食会の時もそんな質問が出ていました。

粉末にした状態しか見たことがなく、もともとは20~50センチまで伸びる細長い海藻だと知らない人もいると思います。

でも、知られていないということは、それだけ驚いてもらえる余地があるということでもあります。

淡水と海水が混ざり合う吉野川の汽水域で育つすじ青のり。

地下海水と太陽の光を使い、陸上の水槽で一年を通して育てられるすじ青のり。

育つ場所や方法は違っても、どちらにも、香り高い海藻を食卓へ届けようとする人たちの工夫があります。

私自身、sea vegetableさんの陸上養殖について、数年前にセミナーにでて試食させていただくなどで知り、今回は、合宿ですき焼きにのせて食べた吉野川のすじ青のりの一口と、生産者さんの説明で改めて興味を持ち、養殖方法を調べるところまでつながりました。

食材のおいしさは、味だけで完結するものではありません。

どこで、誰が、どのように育てているのか。

そして、その魅力を、どんな形で次の人に渡すのか。

背景を知ってから食べると、一口の印象も変わります。

ぜひ、粉末にする前の「すじのまま」で食べてみていただきたい!

「青のり」という言葉から想像していた印象が、きっと変わると思います。

ここで買えます

今回、私が食べた株式会社紬さんのすじ青のりはこちらのお問い合わせからご連絡を!

シーベジタブル すじ青のり 原藻はこちらから購入できます。

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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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